はじめに:なぜ「初任給」だけで判断してはいけないのか
就職活動中の学生と話していると、「あの会社はアクチュアリーの初任給が高いらしい」という話題がよく挙がります。しかし、初任給だけを基準に就職先を選ぶのは非常に危険です。初任給とは、あくまで入社直後の一時的な月給であり、将来的な年収や福利厚生、賞与などを考慮せずに判断してしまうと、後悔する可能性が高くなります。
アクチュアリーの年収については、YouTubeでも話しています。読むより聞くほうが早いという方は、こちらもあわせてご覧ください。
結論:初任給ではなく、入社後の数年で差がつきます
先に結論をお伝えします。アクチュアリー採用の初任給は、同じ会社の総合職(基幹職)と同じ給与テーブルに乗ることがほとんどで、会社ごとの差もそれほど大きくありません。私は普段アクチュアリーの転職支援をしていて、各社の給与テーブルや実際のオファー額を見ていますが、初任給の額面で会社の優劣が決まる場面はほとんどありません。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
差が出るのは、入社して数年たってからです。アクチュアリー試験が進んだときに、資格手当が出るのか、等級や役職が動くのか。この仕組みが会社ごとに違うため、同じ初任給でスタートしても、3年後・5年後には開きが出てきます。
そのため、就職先を選ぶときに見ておきたいのは、初任給の額面ではなく次の3点です。
- 賞与を含めた、年間でいくら支給されるのか
- 初任給に固定残業代(みなし残業)が含まれているか、含まれているなら何時間分か
- アクチュアリー試験が進んだときに、手当や等級がどう動くのか
この3点をそろえて比べないと、額面の高い会社のほうが得だと思って入社し、数年後に伸び方の違いに気づくことになります。以下、それぞれを順に説明します。なお、資格の段階別の年収レンジや30代以降の水準についてはアクチュアリーの年収を上げる6つの方法で解説していますので、年収の全体像を知りたい方はそちらをご覧ください。
アクチュアリーの初任給の実態
実際のアクチュアリーの初任給についてもコメントしておきます。
「アクチュアリーの初任給は特別に高いのでは?」と考えている方も多いかもしれませんが、アクチュアリー採用の初任給は、実際には保険会社の総合職(いわゆる基幹職)と同水準で設定されることがほとんどです。つまり、アクチュアリー職だからといって特別に高額な初任給が支給されるわけではありません。
たとえば、大手生命保険会社・損害保険会社の新卒初任給は、月給で22〜30万円程度が一般的です。ここに固定残業代が含まれることもあり、企業によって詳細は異なります。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
同じ「月給25万円」でも、固定残業代が含まれている会社と、そうでない会社があります。含まれている場合、提示されている金額はその時間まで働いたときの金額ですので、残業の少ない会社の同じ金額とは意味が違います。求人票や募集要項に「固定残業代」「みなし残業」という記載があるかを見ておくと、他社と同じ条件で並べて比べられます。
ただし、一部の企業では、アクチュアリー試験の合格科目数に応じた手当が支給される場合があります。たとえば、「数学」「生保数理」などの1次試験の科目に合格すると、1科目あたり月5,000円〜1万円程度が上乗せされる会社があります。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
もっとも、研究会員(準会員になる前の段階)のうちから手当が出る会社は、それほど多くありません。手当の有無も金額も会社ごとに違いますので、初任給の額面に手当の見込み額を足した金額で会社を比べるのは、あまり当てになりません。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
また、正会員になると昇進や昇給につながるケースも多いため、長期的に見れば他の総合職の社員と比較して、給与の伸び率は比較的高いといえるでしょう。
初任給の正しい捉え方とは?
初任給=手取りではない!額面と実際の収入の違い
「初任給30万円」と聞くと、多くの学生はそのままの金額がもらえると勘違いしがちです。しかし、社会保険料や税金などが差し引かれるため、手取りは約23〜25万円程度になるのが一般的です。初任給の「額面」だけを見て判断するのではなく、実際の生活に直結する「手取り金額」に注目しましょう。
年収ベースで比較すべき理由
同じ初任給でも、年間を通じた給与体系は大きく異なることがあります。たとえば以下の例をご覧ください。
- ① 初任給40万円/賞与なし → 年収480万円
- ② 初任給30万円/賞与年120万円 → 年収480万円
一見①のほうが高収入に見えますが、年間で見ると両者は同じです。このように、初任給だけで企業を判断してしまうと、賞与や昇給の情報を見落とすことになります。他にも大手の保険会社では社宅や家賃補助がある場合もあり、これらは初任給に含まれないことが一般的です。
福利厚生・賞与も含めた「総合的な待遇」を見る
福利厚生には、アクチュアリー資格取得支援や寮、食堂、通勤しやすさなど、金額には現れない価値があります。特にアクチュアリーのような専門職では、資格取得のサポートが重要な評価ポイントです。制度面も含めて「働きやすさ」を評価しましょう。
残業代込みの初任給をどう読むか
残業をすれば、その分の給料は増えます。ここは事実です。ただ、同じ仕事を1時間で終える人と10時間かけて終える人がいたとき、評価されるのは前者です。時間をかけただけでは評価には結びつかず、来年の給与にも反映されにくいというのが、会社員としての働き方だと私は考えています。
そのため、残業代を含めた金額で生活設計をするのは、私はおすすめしません。固定残業代が含まれている会社であれば、含まれていない部分、つまり基本給がいくらなのかを見ておくと、入社後の昇給や賞与の計算の土台が見えてきます。
資格手当は、1年目の初任給には入っていない
アクチュアリー試験の科目合格に応じた手当がある会社でも、手当が乗るのは合格してからです。入社1年目から見込める金額ではありませんので、手当の見込み額を初任給に足して他社と比べると、実際の入社1年目の収入とはずれます。
一方で、資格手当の仕組みそのものは、会社を選ぶうえで見る価値があります。手当の金額よりも、正会員になったときに等級や役職が動く会社かどうかのほうが、数年後の年収には大きく効きます。正会員になると役職が上がる会社もありますので、会社説明会やOB・OG訪問の場で、資格が進んだ人がどういう処遇になっているかを聞いておくとよいと思います。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
大学院卒と学部卒で、初任給はどのくらい違うのか
就職活動中の学生からよく聞かれるのが、大学院に行ったほうが初任給が高くなるのか、という質問です。院卒のほうが新卒の給与テーブルで少し高い位置に置かれる会社が多く、入社1年目・2年目の月給には差が出ます。ただ、その差はそれほど大きなものではありません。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
私自身は学部卒ですので偏った見方かもしれませんが、生涯で受け取る額という意味では、学部卒で早く働き始めたほうが大きくなりやすいと考えています。理由は、比べるべきなのが入社1年目・2年目の月給ではなく、働く期間の最後の2年間だからです。アクチュアリーとして経験を積んだ後の2年分は、1年目・2年目の2年分よりも水準が高くなります。2年早く実務経験を積めることの価値は、初任給の差よりも大きいと私は見ています。
採用の場面でも、院卒でなければ不利になるということはありません。私の感覚では、アクチュアリーの新卒採用は学部卒が4割、院卒が6割くらいです。もともとアクチュアリーを志望する方に院卒が多いという事情もあり、学部卒でもアクチュアリーになる道は十分にあります。選考で見られるのは、人柄やコミュニケーション能力、そしてアクチュアリー試験に挑み続けられるかどうかだと私は感じています。
大学院に進むかどうかの判断そのものは、初任給の差では決めないほうがよいと思います。研究をしたいのか、学生のうちにしかできないことをしたいのか、という目的の話です。判断の材料はアクチュアリー志望者は大学院に行くべきかにまとめていますので、迷っている方はそちらをご覧ください。
就活でありがちな誤解とその落とし穴
例:初任給40万円・賞与0万円 vs 初任給30万円・賞与120万円
先述の通り、初任給の額面だけでは企業の本当の評価はできません。とあるアクチュアリーの知り合いが「初任給が高かったのでA社を選んだが、年収の伸びが鈍く、後悔している」と語っていたケースもあります。目先の金額ではなく、中長期的な年収モデルを見ることが重要です。
数年後の昇給モデルを必ず確認すべき理由
アクチュアリー職では、入社後の資格取得や実務経験により昇給が見込めます。正会員になったときに、資格手当や等級の変更で年収が100万円単位で変わる会社もありますが、その幅は会社ごとに違います。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
この仕組みは、入社してから変えられるものではありません。だからこそ、就職先を選ぶ段階で、資格が進んだ人の処遇を確認しておく意味があります。資格の段階ごとにどのくらいの水準になるのかはアクチュアリーの年収を上げる6つの方法で説明しています。
誤解:正会員になれば、どの会社でも同じだけ年収が上がる
正会員になったときに年収を上げてもらえる会社は多いのですが、すべての会社がそうというわけではありません。資格手当がない会社もありますし、等級が変わらない会社もあります。アクチュアリー職として採用されるからといって、資格が処遇に反映される仕組みがあるとは限りませんので、ここは会社ごとに確認しておきたいところです。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
誤解:初任給の低い会社に入ると、後から追いつけない
年収は、所属している会社の給与テーブルで決まります。転職した場合も転職先のテーブルに沿うのが基本で、新卒から在籍している人とあとから転職してきた人で、同じ年次なら大きく変わらないことが多いです。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
つまり、最初に入った会社の水準がそのまま一生ついてくるわけではありません。正会員になれば転職の選択肢は広がりますので、初任給の低さだけを理由に就職先を諦める必要はないと私は考えています。逆に、いまいる会社が業界で最も高い水準を出しているのであれば、転職しても年収が上がらない場合もあります。
アクチュアリーとしてのキャリアと収入の関係
3年後・5年後・10年後の給与モデルとは?
初任給は業界内である程度似通っていますが、キャリアが進むにつれて差が出てきます。私が転職支援の実務で見ている範囲では、入社から数年のあいだの動き方は、おおむね次のようになります。(出典:ACEプロフェッショナル調べ)
- 入社1年目:総合職(基幹職)と同じ給与テーブル。月給22万〜30万円程度に賞与が加わる水準
- 社会人3年目ごろ・研究会員:保険会社の総合職と同じ年収帯で、600万〜700万円台という方が多い
- 早く正会員になれた場合:社会人3年目から4年目で1,000万円前後に届く会社もある
金額はいずれも幅のある目安で、会社ごとの給与テーブルによって違います。私自身は、正会員になった社会人4年目、26歳のときに年収1,000万円を超えました。同じころに正会員になった同期も、4年目で1,000万円を超えていました。試験をどれだけ早く進められるかが、入社後の数年でいちばん大きく効く要素だと感じています。
その先の水準、たとえば30代以降にどこまで伸びるのかについては、アクチュアリーの年収を上げる6つの方法で資格の段階別に説明していますので、あわせてご覧ください。
資格取得と昇給・昇格の相関性
アクチュアリー資格の取得が昇格に直結している企業も多くあります。逆に、制度上あまり昇給が見込めない企業もありますので、制度と運用の実態をインターンやOB・OG訪問などで確認しておくことをおすすめします。
まとめ:初任給だけに惑わされず、将来を見据えた選択を
アクチュアリー 初任給という数字に目を奪われがちですが、重要なのはその先にある年収の推移や福利厚生、賞与の仕組みです。初任給はあくまで「スタート地点」であり、ゴールはその何年も先にあります。
もし「どの企業が自分に合っているのか分からない」「長期的な視点で判断する方法が知りたい」という方は、ご自身でインターンに行ったり、OB訪問を行ってください。
アクチュアリー就活塾ではアクチュアリー就活したい学生のために対策会を行っていますので、是非会員登録をしてご参加ください。
この記事がアクチュアリー就活生のキャリアの参考になれば幸いです。
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この記事の執筆者
松岡 / 日本アクチュアリー会 正会員(FIAJ)
株式会社ACEプロフェッショナル 代表取締役
アクチュアリーの転職支援・試験対策指導に従事


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