
アクチュアリーの仕事ってなんですか

アクチュアリーと言っても、
やっている内容は人によって大きく違います。
そこで今回は「アクチュアリーの業務内容」
について広く浅く話ができればと思います
この記事は、2026年9月に加筆しました。商品開発のアクチュアリーが実際に何をしているかは、次の動画でより詳しく話しています。
はじめに
アクチュアリーは、保険業界や金融分野において不可欠な役割を果たす保険数理の専門家です。数学や統計学の知識を駆使し、保険料設定、決算、リスク管理、資産運用など幅広い分野で活躍します。
今回は実際に正会員として働く私が、アクチュアリーの多岐にわたる仕事について、広く浅く解説します。また、法的にアクチュアリーが行うことが求められている「独占業務」について、解説します。
筆者自身は商品開発周りの経験が中心なので、解説する仕事の中には、実際に経験していない仕事もありますが、一緒に働いているアクチュアリーの話などを参考に記載してます。
記載のない業務や反対意見があれば、是非コメントで教えてください。
結論:アクチュアリーの仕事は、商品開発・決算・リスク管理が柱です
保険会社のアクチュアリーの仕事は、大きく分けると3つです。保険料を決める商品開発、責任準備金を評価する決算、会社が抱えるリスクを測って管理するリスク管理。ここに資産運用やデータ分析が加わり、さらに監査法人・コンサルティング会社・再保険会社・信託銀行など、保険会社の外側にも仕事の場があります。
意外に思われるかもしれませんが、人数が多いのは商品開発ではなく決算です。私の肌感覚では、生命保険会社のアクチュアリーのうち6割ほどが決算、2割が商品開発、2割がリスク管理という構成です(社内外の統計ではなく、私が見てきた範囲での印象です)。「アクチュアリーは保険料を決める人」というイメージだけで入社すると、配属で戸惑うことがあります。
もう一つの分かれ方が、生保・損保・年金という分野の違いです。日本アクチュアリー会の個人会員5,916名の業態分布は、生命保険2,412名、損害保険889名、信託345名、その他2,270名となっています(2026年3月末時点。出典:日本アクチュアリー会「アクチュアリーの活躍フィールド」)。生保が最も多く、損保、信託(年金)と続きます。
以下では、まず分野ごとの違いを整理し、そのあとで業務ごとの中身に入ります。私自身は生命保険会社で商品開発を中心に経験してきましたので、そこは踏み込んで、経験していない領域は一緒に働いてきたアクチュアリーから聞いている範囲で書きます。
生保・損保・年金で、仕事はどう違うか
アクチュアリーの分け方はいくつもありますが、生保アクチュアリー・損保アクチュアリー・年金アクチュアリーという3つの分け方が、最もよく使われます。ここで言う「生保アクチュアリー」は、生命保険会社の社員だけを指すわけではありません。監査法人で生命保険会社の監査をしている人も、再保険会社で生命保険の再保険を扱っている人も、生保領域で働いていれば生保アクチュアリーと呼ばれます。
生保アクチュアリー
生命保険が扱うのは、人の生き死ににかかわるリスクです。死亡保険が代表ですが、医療保険のようないわゆる第三分野の商品も、生命保険会社が扱っています。仕事の中身は、保険料を作る商品開発、責任準備金を計算する決算、そしてリスク管理が中心です。
特徴を挙げるとすれば、会社の中でのアクチュアリーの存在感が比較的大きいことです。近年はアクチュアリー出身の方が経営層に入る例も出てきています。また、資格手当を設けている会社が損保より多い印象があり、正会員を目指すモチベーションを保ちやすいのは生保だと感じています(求人実務から見えている傾向です)。
損保アクチュアリー
損害保険は、ものが壊れたり損害が生じたりしたときの経済的な負担に備える保険です(実際にはものだけが対象ではありません)。仕事の中身は生保と同じく商品開発や決算ですが、扱う商品の性格が違います。
損保の面白さは、新しいリスクを扱えることです。サイバーリスクや宇宙保険のように、これまで保険の対象ではなかったものが商品になります。生保は人の生き死にが対象なので、まったく新しい商品はそれほど出てきません。また、自動車保険や海外旅行保険のように、生活の中で目にする機会が多いのも損保の特徴です。
もう一つは、データサイエンスとの親和性です。生命保険の保険料は基本的に性別と年齢で決まりますが、自動車保険では車種や等級など多くの要素を加味します。そのため、機械学習を使って保険料を作る会社もあります。
年金アクチュアリー
年金と聞くと公的年金を思い浮かべる方が多いのですが、年金アクチュアリーの多くが関わるのは団体年金(企業年金)です。会社が従業員のために用意する年金制度で、死亡率や脱退率を踏まえて数理的に運営する必要があるため、信託銀行や生命保険会社、コンサルティング会社、監査法人のアクチュアリーが支えています。退職給付債務(PBO)の評価も、年金アクチュアリーの領域です。
特徴は2つあります。1つは、お客様と直接接点を持てること。生保や損保のアクチュアリーはいわゆるバックオフィスで、商品開発でも決算でも、お客様に会う機会はほとんどありません。もう1つは、後の章で触れる年金数理人につながる道があることです。
なお、私自身は生保アクチュアリーで、年金の実務経験はありません。この項は、年金分野の方から聞いている範囲で書いています。
どの分野を選べばよいか
就活生から最もよくいただく質問です。結論から言えば、その事業に興味を持てるかどうかが一番の判断材料だと思います。生命保険、損害保険、企業年金が世の中でどう役に立っているのかを調べた上で、自分が納得できる分野を選ぶ。ビジネスの意義が自分の中で腑に落ちていないと、長く働くのは難しいと感じます。
その上で、どうしても決めきれない場合は生保をおすすめしています。理由は2つで、生命保険会社の数が多くアクチュアリーのポジションも多いこと、そして正会員を目指す環境が整っている会社が比較的多いことです。転職の支援をしていても、選択肢の数は生保のほうが多いのが実情です。
ただ、新卒で選んだ分野を一生変えられないわけではありません。生保と損保は、保険というビジネスの本質が同じなので行き来しやすいです。一方、生保と年金は扱うものがかなり違うため、年次が上がるほど移りにくくなります。転職支援をしている実感では、入社10年目くらいまでであれば比較的移りやすいと感じています。
1.アクチュアリーの業務内容
アクチュアリーは、保険分野を含むさまざまな領域で仕事をしています。以下に、それぞれの領域でのアクチュアリーの業務内容を紹介します。主な会社や部署名を記載しますが、私の経験則であり、特に会社によって部署のネーミングは異なるので、ご注意ください。
保険料設定(プライシング)
主な会社や部署:保険会社の商品部・商品数理部
主な業務内容:新商品の発売や既存商品の改定に伴い、保険料を適正に設定します。
純保険料の設定では、加入が想定される母集団の発生率を見積もります。また、近年の金利環境や標準利率、当該商品の想定キャッシュフローなどを鑑み、予定利率を設定します。
付加保険料の設定では、収益性が十分に確保されているかを検討し、同時に代理店の手数料も設定します。
決算業務
主な会社や部署:保険会社の計理部・経理部・数理部
主な業務内容:年次決算や四半期決算において、アクチュアリーは責任準備金の評価などを行い、当期の財務資料を作成し、経営陣にレポートします。
保険計理人や計理人をサポートする人は、利源分析など、金融庁への提出資料を作成します。
経営企画
主な会社や部署:保険会社の経営企画部
主な業務内容:中期経営計画などの経営戦略の立案。特に、アクチュアリーは、プライシングや財務、リスク管理などの視点から経営戦略の立案に関わります。
また、会社の契約ポートフォリオ、経営計画、将来の経済状況などを考慮し、保険会社の将来収支を予測し、経営戦略の精緻化や修正に関わることもあります。
リスク管理
主な会社や部署:保険会社や銀行のリスク管理部
主な業務内容:会社がさらされているリスクを特定、評価し、最適な対応策を検討します。これにより、会社経営の安定化を目指します。
統合的リスク管理(ERM:Enterprise Risk Management)の概念では、全社的なリスク文化の構築が好ましいとされており、経営陣を始め全従業員のリスク意識を高めるための啓蒙活動を行うことがあります。
資産運用
主な会社や部署:保険会社の資産運用部
主な業務内容:保険会社の資産ポートフォリオを最適化し、リスクとリターンのバランスを保ちます。特にアクチュアリーは負債サイド(責任準備金)について、知識が豊富であることから、資産運用部門にアサインされることがあります。
過去の逆ざやの反省から、資産負債管理(ALM:Asset and Liability Management)に保険会社は注力しており、資産運用とリスク管理の両方の知見をもったアクチュアリーが必要とされています。
営業職員給与・代理店手数料規定の作成
主な会社や部署:保険会社の営業企画部・商品部・商品数理部
主な業務内容:営業職員や代理店の報酬制度を考案・設計して、保険会社利益の最大化を目指します。
銀行窓販などや乗合代理店では、他社の手数料水準が売上に大きく影響するので、他社動向について、日頃からのリサーチが必要です。
また、手数料の変更は、商品ごとの収益性に関わる部分なので、プライシング部門や収益管理部門との入念なコミュニケーションが必要です。
団体年金
主な会社や部署:信託銀行・保険会社の団体年金部
主な業務内容:団体年金制度の設計と運用に関与し、将来の年金支払いに備えます。また、アクチュアリー正会員で一定の要件を満たすと、年金制度等のプロフェッショナルである年金数理人になることができます。詳しくは年金数理人会のHPをご覧ください。
データサイエンス
主な会社や部署:コンサルティング会社・保険会社のDX推進部や商品部等
主な業務内容:予測モデルの作成やビジネス戦略の立案など、データサイエンスを活用する業務全般。アクチュアリーとしてのデータ分析とモデリングのスキルを活かして、データサイエンティストのように働く人もいます。
保険会社の外からデータサイエンティストを雇うこともありますが、プログラミングや機械学習に精通し、かつ保険会社内の事情を理解しているアクチュアリーは、データサイエンティストとして重宝されます。
また、データサイエンスと医療統計などの医学的知見を活かして、製薬会社や医療機関のデータサイエンティストにアクチュアリーから転身するもいます。
コンサルティング
主な会社や部署:コンサルティング会社・再保険会社
主な業務内容:コンサルティングといっても色んな分野がありますが、アクチュアリーが関わるものとしたら、IFRS17などの新しい会計基準の導入などが多い印象です。
他にも
・団体年金
・リスク管理支援
・商品開発支援
・経営戦略の立案
など、色んな形で、保険会社等の支援を行っています。
監査
主な会社や部署:監査法人
主な業務内容:保険会社等の財務情報を監査し、正確性を担保します。また、企業買収のデューディリジェンスにも関与することがあります。
特に監査法人の方の話を伺うと、アクチュアリーは責任準備金の評価やIFRS会計の監査に携わることが多い印象です。
余談ですが、たまに公認会計士とアクチュアリーのダブルホルダーの人がいます。みんな超優秀です。
再保険
主な会社や部署:再保険会社
主な業務内容:保険会社の保険会社である再保険会社にリスクを転嫁する再保険契約を評価します。再保険の引受条件などを検討することが、主にアクチュアリーの役割のようです。
海外事業部門
主な会社や部署:保険会社の海外事業部
主な業務内容:海外子会社の保険会社の決算状況の確認や、海外におけるマーケット調査や新規事業の立案などに携わります。特にアクチュアリーは、その国における経営環境や国際会計基準の知識を活かして、リスク評価や戦略立案に携わります。
商品開発の仕事を、企画から発売後まで追ってみます
ここまでは、どの部署でどんな仕事があるかを広く並べてきました。ここからは、私が経験してきた商品開発を例に、実際の流れを順に追ってみます。保険料を計算するだけの仕事ではない、ということが伝わればと思います。
出発点は商品企画です。どんな商品を作るかを決めるところから始まり、たとえばがん保険を作るなら、他社がどんながん保険を出しているかを調べて対比表を作ります。アクチュアリーは、そのうち保険料の部分を集計することが多いです。商品開発のチームの中でアクチュアリーは少数派で、10人のチームなら1人か2人という程度です。ほかは約款や事業方法書を作る担当、マーケティングの担当、プロジェクトマネジメントの担当などで構成されます。
経営陣に「こういう商品を作りたい」と持ち込むには、概算の保険料が必要です。そのために、発生率を作れるかどうかを検討します。入手先は主に3つで、国が公表している患者調査のような公的統計、自社がこれまでに引き受けてきた契約の実績、そして健康保険組合のデータを加工して販売しているデータベンダーからの購入です。ここで概算の保険料を出して社内で検討してもらうのですが、案件そのものがなくなることも珍しくありません。
企画の段階でもう一つ関わるのが、支払事由(保障範囲)と引受範囲の検討です。どの病気になったらいくら払うかを広げれば保険料は上がり、狭めれば下がります。保障範囲と保険料は一対一の関係にあるので、ここにアクチュアリーが入ります。引受範囲、つまりどのような健康状態の方にご加入いただくかも同じです。医療保険やがん保険では医学的な知見も必要になり、私もがん保険を作るときにずいぶん勉強しました。医学系のバックグラウンドを持つ方の知識が生きるのは、この辺りだと思います。
企画が通ると、プライシングと収益性評価に入ります。生命保険の保険料は、予定死亡率(商品によっては予定発生率)・予定利率・予定事業費率の3つで決まります。保障そのもののための部分が純保険料、事業を運営するための経費の部分が付加保険料です。アクチュアリーは、この3つの基礎率を作ります。
基礎率を作ったら収益検証です。この商品を売ったら5年後・10年後にどれだけの収益が出るか、1件あたりの利益はいくらか、といった指標を計算し、いま販売している商品と比べて経営に報告します。収益が足りなければ予定事業費率を上げることになりますが、そうすると保険料が上がり、販売量は落ちます。この関係があるので、基礎率を作っては収益検証をし、また作り直すという作業を何度も繰り返します。あわせて感応度分析も行い、実際の死亡率が動いたときに収益がどれだけ変わるか、運用利回りが動いたときはどうか、といった弱点を把握します。
3つ目が社内調整です。保険料を作って終わりではありません。営業職員が持つタブレットや、インターネットの申込画面に正しい保険料が表示されるかを確認するシステム開発の工程があり、責任準備金の計算がシステムに正しく入っているかも確認します。引受査定や保険金支払いの部署とは、保障範囲が変わることを共有しておかないと、支払いの誤りにつながります。営業を束ねる部署とは、手数料の水準について折り合いをつける必要があります。商品部だけで完結しないところが、この仕事の面白さだと思っています。
4つ目が金融庁との認可折衝です。生命保険は認可を受けて営む事業で、新しい商品を売るにも認可が要ります。社内で合意が取れただけでは売れません。アクチュアリーが担うのは、保険料および責任準備金の算出方法書、いわゆる算方書です。保険料の計算方法、責任準備金の計算方法、解約返戻金や未経過保険料の取り扱いなどを書きます。あわせて、予定死亡率や発生率といった基礎率をどのように作ったかを書類にまとめて提出し、その作り方が妥当か、公平かを確認されます。金融庁にも保険数理専門官というアクチュアリーがいて、その方々と向き合うことになります。指摘を受けて基礎率を直せば保険料も変わりますので、やり直しが発生することもあります。
このほか、商品によっては発売と同時に再保険会社へ出再することを検討し、再保険を前提に収益検証をすることもあります。
そして、発売後の仕事があります。むしろ、入社して間もない方が任されるのは、こちらであることが多いです。想定していた件数どおりに売れているか、加入者の年齢や性別の構成は想定どおりか、収益性はどうかをモニタリングします。損が出ていれば、その原因を調べます。貯蓄性の商品では、金利の情勢に応じて月に1回や2回、予定利率を見直すこともあります。また、保険の商品は特許で守ることができないため、売れている商品は他社に追随されます。市場の動きを継続的に見ておく必要がある、というのも発売後の仕事の一つです。
決算にアクチュアリーが必要な理由
先ほど、生命保険会社のアクチュアリーは決算に携わる人が最も多いと書きました。では、なぜ決算にアクチュアリーが必要なのでしょうか。ここは就職活動の面接でも聞かれることがありますので、順を追って説明します。
決算書類のうち、貸借対照表(バランスシート)には資産・負債・純資産が並びます。負債とは、将来支払わなければならないお金のことです。そして、生命保険会社の負債の大部分を占めるのが責任準備金です。決算部門のアクチュアリーは、この計算に携わっています。
責任準備金が何かを、定期保険で考えてみます。30歳から40歳までの保険に、期間を通じて同じ保険料を払うとします。死亡率は年齢とともに上がっていきますから、若いうちは実際に必要な分より多めに受け取り、年齢が上がると足りなくなります。このとき、先に多めに受け取った分は、将来の保険金の支払いのために取っておかなければなりません。この積み立てておくべきものが責任準備金で、保険業法で積立が義務づけられています。
生命保険が前払いのビジネスであることが、責任準備金が生まれる理由です。将来のために預かっているお金を先に使ってしまえば、いざ保険金を請求したときに会社が残っていない、ということになりかねません。他業種でも、前払いで代金を受け取る事業が、将来の費用に備えられずに行き詰まる例があります。保険会社でそれが起きてはいけないので、法律で歯止めがかけられています。
責任準備金の計算式を読むには、生命保険数理の記号が分かる必要があります。日本アクチュアリー会の教科書『生命保険数学』を読まないと理解できません。だからこそ、決算にアクチュアリーが必要になります。
実務では、保有契約の責任準備金はシステムに入っていて、決算のアクチュアリーはそのデータを集計していることが多いです。ただ、その計算が正しくできているかを確認するには、計算方法そのものを理解している必要があります。監査法人のアクチュアリーは、保険会社の責任準備金が正しく計算されているかを確認する側に回ります。
ですので、就活生や未経験から転職を考えている方には、まず生保数理から手をつけることをおすすめしています。記号の意味が分からないままでは、仕事に入っていけないからです。勉強の順序は生保数理の勉強方法【アクチュアリー試験】にまとめています。
会計基準によって、決算の仕事の幅は変わります
決算をする理由は、大きく4つあります。経営のため、金融庁などの監督当局と契約者のため、株主や債権者のため、そして税金のためです。私が学生に説明するときは、この4つで整理しています。
会計基準は、日本の会計基準(J-GAAP)、米国の会計基準(US-GAAP)、国際会計基準(IFRS)の3つが話題になります。日本の保険会社はJ-GAAPでの決算が必須です。その上で、親会社が米国にあればUS-GAAP、欧州などにあればIFRSを併用することがありますし、海外の投資家を意識してIFRSを採用している会社もあります。
J-GAAPでは、新しい契約を取った初年度に費用が大きく出るため、売れば売るほど単年度の利益が出にくくなる、という特徴があります。IFRS17では、保障を提供する期間にわたって利益を認識する考え方を取るので、利益の出るタイミングが変わります。どの会計基準であっても負債、つまり責任準備金の計算は必要ですから、アクチュアリーはそれぞれの基準での計算に携わることになります。
就職先や転職先を見るときの視点としてお伝えしておくと、その会社がどの会計基準を扱っているかで、アクチュアリーの仕事の幅は変わります。J-GAAPだけの会社より、IFRSやUS-GAAPも扱っている会社のほうが、得られる知見は広くなります。
2.アクチュアリーの独占業務
法的に定められたアクチュアリー資格を取得した人だけが行える業務(いわゆる「独占業務」)があります。具体的には、「保険計理人」や「年金数理人」の2つです。
日本アクチュアリー会は、日本のアクチュアリー資格について、保険会社の経営や年金制度の運営に欠かせない「保険計理人」「年金数理人」の要件の一つとして法律に定められている、と説明しています(出典:日本アクチュアリー会「アクチュアリーの活躍フィールド」)。正会員資格そのものが、ある仕事の全体を資格保持者だけのものにしているというより、法令で定められた役割に就くための要件になっている、という位置づけです。
ですので、アクチュアリーの仕事をするために正会員資格が必要、というわけではありません。実際には、アクチュアリー候補生として入社し、働きながら試験を受けている方がほとんどです。この点は、後の「よくある誤解」でも触れます。
保険計理人
保険計理人は保険料や責任準備金の算出に関する業務や保険会社全体の健全性を確認する業務を行うことが求められており、「保険業法」において保険会社は保険計理人を選任することが義務付けられています。
保険計理人になるためには、日本アクチュアリー会の正会員、かつ保険会社で保険数理に関する業務に5年以上従事する等の条件を満たす必要があり、専門知識と業務経験の両方が求められます。
年金数理人
厚生年金基金、国民年金基金および確定給付企業年金から厚生労働大臣に提出する「年金数理に関する書類」については、適正な年金数理に基づいて作成されていることを確認し、記名をしたものでなければならないと「確定給付企業年金法」に規定されています。
年金数理人になるには、以下の4要件をみたし、厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。
①知識:日本アクチュアリー会資格試験もしくは日本年金数理人会試験の全科目に合格等したもの
②経験:年金数理業務に5年以上従事したもの
③責任者たる経験:年金数理業務の責任者として年金数理業務に2年以上従事したもの
④社会的信用:十分な社会的信用を有するもの
信託銀行などでは、年金数理人として働く方が多いので、独占業務を行う機会は多い方かと思います。しかし、保険計理人として独占業務を行う人は少ないのが実態です。保険計理人は、1会社1人なので、実際に保険計理人として働く人は少ないです。
こうしてみると、「公認会計士」や「税理士」などの他の資格と比較すると、独占業務の数が圧倒的に少ないので、資格としての優位性は一見低そうに見えます。しかしながら、統計的知識や保険数理、年金数理、リスク管理等の専門知識を必要とする業務は、最初に解説したとおり、独占業務以外にもたくさんあり、アクチュアリーの資格を有することは、そうした業務に携わる知識を有していることを示すことにつながるので、信頼度、説得力の増強、キャリア開発などにおいても、かなり有利に働きます。
よくある誤解
アクチュアリーの仕事について、就活生や転職を考えている方から実際によく聞く誤解を3つ挙げます。
「正会員にならないと、アクチュアリーの仕事はできない」
正会員資格は、保険計理人や年金数理人になるための要件として法令に定められていますが、アクチュアリーの業務に就くための条件ではありません。試験は年に1回で、正会員になるまでには年単位の時間がかかりますから、保険会社・信託銀行・コンサルティング会社・監査法人などにアクチュアリー候補生として入り、働きながら受験するのが一般的です。私の周りでも、入社の時点で正会員だった人のほうが珍しいくらいです。
ただし、資格を取らなくてよいという意味ではありません。試験で学ぶ数学や生保数理の知識は実務でそのまま使いますし、2次試験は商品開発や決算といった実務そのものを扱います。転職のしやすさにも関わってきますので、働き始めたら正会員を目指すことをおすすめします。
正会員になるまでの順序と、働き始めるまでの順序がどう関係するのかは、アクチュアリーになるには|大学・文系の疑問に正会員が回答で整理しています。
「アクチュアリーは保険料を決める人」
最も想像しやすいのが商品開発だと思いますが、人数で見れば決算のほうが多い、というのが私の肌感覚です。冒頭に書いたとおり、生命保険会社では決算に携わる人が過半を占めるという印象を持っています。商品開発に憧れて入社しても、最初の配属が決算になることは珍しくありません。
もっとも、どの部署に配属されても、保険数理の考え方が土台になる点は変わりません。決算で責任準備金の計算に触れることは、商品開発に移ったときにも生きます。最初の配属で進路が決まるわけではない、と考えていただければと思います。
「新卒で選んだ分野は、一生変えられない」
生保・損保・年金の間での移動はあります。生保と損保は、保険というビジネスとしての本質が近いので、行き来しやすいです。一方、生保と年金は扱うものがかなり違うため、年次が上がるほど移りにくくなります。転職支援をしている実感では、入社10年目くらいまでであれば比較的移りやすいと感じています。数は多くありませんが、3つの分野すべてを経験された方も実際にいらっしゃいます。
おわりに
アクチュアリーは、金融業界において数学的な専門知識とリスク管理等の能力を有する専門家です。アクチュアリーにより、企業は経営を行うことができ、お客様に信頼性のある保険や年金サービスを提供できます。
また、保険計理人や年金数理人になるには、アクチュアリーとしての資格が必要であると解説しました。今回の記事が、アクチュアリーを目指している方の参考になれば幸いです。
また、日本アクチュアリー会のHPにおいても、アクチュアリーの活躍フィールドとしてまとまっているので、ぜひそちらもご覧ください。
AC育成塾では、みなさまのアクチュアリーとしての成功の支えとなれるように、色んなコンテンツをやっていきたいと思っていますので、これからも一緒に頑張っていきましょう!
最後までご覧いただきありがとうございました!
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この記事の執筆者
松岡 / 日本アクチュアリー会 正会員(FIAJ)
株式会社ACEプロフェッショナル 代表取締役
アクチュアリーの転職支援・試験対策指導に従事


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