
高校1年生です。アクチュアリーの仕事に憧れているのですが、アクチュアリーになるには何をすればいいですか。

アクチュアリーに興味を持っていただけてうれしい質問です。
まず「資格を取ること」と「その仕事に就くこと」を分けて考えるところから始めましょう。
これはYouTubeのコメント欄に実際にいただいた質問です。
調べてみても、出てくるのは試験制度の説明か求人情報のどちらかで、自分の立場から今日何を始めればいいのかは分からないまま、という方は多いと思います。
私自身、大学3年生のときに「数学 職業」と検索してアクチュアリーという職業を初めて知った人間ですので、同じ場所に立っていた者として順を追って説明します。
動画でも解説していますので、こちらもご参照ください。
結論:資格を取る道筋と、働き始める道筋は別のものです
アクチュアリーになるには、という質問には2つの答えがあります。
ひとつは「日本アクチュアリー会の正会員になるには」という資格の話、
もうひとつは「アクチュアリーとして働き始めるには」という就職の話です。
この2つは重なってはいますが、同じものではありません。
多くの人がたどるのは、次の順序です。
第一に、大学に進む。理系が多数派ですが、学歴や学部の要件は制度上ありません。
第二に、新卒採用のアクチュアリー職(企業によって呼び方は異なります)に応募して入社する。
第三に、働きながら資格試験を受け、数年かけて正会員になる。
つまり、ほとんどの人は資格を取り終える前にアクチュアリーとして働き始めています。
資格試験自体は、2026年3月31日時点で満18歳以上であれば受験できますので、学生のうちから受けることもできます(日本アクチュアリー会「2026年度 資格試験要領 本紙」)。
ただし、私が採用する側にいたときの実感として、選考で最も見ているのは合格科目の数ではありません。
「資格」と「仕事」は別物です
日本で「アクチュアリーの資格」というと、日本アクチュアリー会の正会員資格を指すのが一般的です。日本アクチュアリー会は、アクチュアリーを「確率や統計などの手法を用いて、将来の不確実な事象の評価を行い、保険や年金、企業のリスクマネジメントなどの多彩なフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナル」と説明しています(日本アクチュアリー会「5分でわかるアクチュアリー」)。
ここで押さえておきたいのは、正会員になるために実務経験は要件になっていないこと、そして逆に、正会員でなくてもアクチュアリーの業務に就けることです。
試験には年単位の時間がかかりますから、保険会社や信託銀行、コンサルティング会社、監査法人などにアクチュアリー候補生として入り、業務と試験勉強を並行させるのが実際の姿です。私の周囲でも、正会員でない状態からアクチュアリーとしてのキャリアを始める人がほとんどです。
具体的にどんな仕事をしているのかは、アクチュアリーの業務内容~正会員が解説~にまとめています。
ですから、「アクチュアリーになるには」という質問の多くは、実質的に「アクチュアリーとして働き始めるにはどうすればいいか」という質問だと私は受け取っています。
正会員になるまでの順序
資格そのものの道筋は、公式に定められています(日本アクチュアリー会「アクチュアリー資格取得の流れ」)。
1次試験は、数学・生保数理・損保数理・年金数理・会計・経済・投資理論の5科目です。この5科目すべてに合格すると準会員になります。準会員になると2次試験を受けられるようになり、生保コース・損保コース・年金コースの3つから1つを選び、そのコースの2科目に合格します。そこにプロフェッショナリズム研修の受講が加わって、正会員です。合計7科目、と覚えていただければ十分です。
試験は年に1回、12月に行われます。2026年度は各科目180分で、合格基準は「各科目の満点の60%を基準として試験委員会が相当と認めた得点」とされています(2026年度 資格試験要領 本紙)。
公式には「全科目合格までには最低でも2年を必要とします」と書かれていますが、これは最短の話で、働きながら受ける方のほとんどはもっと長い時間をかけています。ちなみに私自身は5年かかりました。
そして、2027年度から1次試験の科目構成と試験時間が変わります。 すでに合格している科目の扱いにも条件がありますので、これから受験する方はアクチュアリー試験の制度改正|新科目とみなし合格を正会員が解説を先にご覧ください。
大学と学部はどう選ぶか
高校生の方から一番よくいただくのが、「アクチュアリーになるために、大学と学部をどう選べばいいか」という質問です。
まず制度の話をすると、先ほど書いたとおり受験資格は年齢だけで、出身大学や学部の要件はありません。その上で実態をお話しすると、アクチュアリーには難関大学の理系出身者が多いというのが私の印象です。これは公式の統計ではなく、私がアクチュアリー就活や採用の場で見てきた印象です。
なぜそうなるかというと、1次試験が数学の試験だからです。
微分積分、数列の計算、確率の計算といった素養が前提になります。裏を返せば、数学ができるのであれば大学名そのものは問題ではありません。
ただ、高校生の段階では具体的な目標があったほうが動きやすいと思いますので、理系の難関大学を目標に置いて受験勉強を進めるのが、結果として順当な道になりやすいとは思います。
学部・学科については、数学科が王道です。
ちなみに、私は早稲田大学の基幹理工学部応用数理学科の出身です。
確率や統計を扱う数学科を出たアクチュアリーは多い印象ですが、経済学部、機械工学、物理学科、化学科などから来た人も普通にいます。
ここで一点、進路に迷っている方に伝えたいことがあります。
アクチュアリー以外にも行きたい学科があるのなら、そちらを選んで構いません。
たとえば宇宙工学とアクチュアリーで迷っているなら、工学系に進んでください。大学3年生の時点で「やはりアクチュアリーを目指したい」と思えば、そこから進路を変えることは十分に可能です。
逆に、アクチュアリーを目指すと決まっているのであれば、同じ志望の学生が多い数学科のほうが情報も入りやすいと思います。
大学院に進むかどうかについては、アクチュアリー志望者は大学院に行くべきか?判断のための徹底ガイドで別に扱っています。
文系からでも目指せるのか
制度上の制約はありませんので、目指せます。ただ、正直に書いておきたいことがあります。
アクチュアリー試験の数学は「基礎的な微分積分と数列の計算ができれば大丈夫」と説明されることがあります。私自身もそう思っていました。
けれども、この「基礎的」という言葉は、理系で数学を学んできた人の基準で語られたものです。指数関数の微積分や等比級数の計算を「理系なら当然できる」と考えている人の感覚が、そのまま言葉になっています。
大学受験で数I・A・II・Bまでしか学んでいない方にとって、この壁は決して低くありません。
短期間で間に合うという前提で計画を立てると苦しくなりますので、必要な時間を正しく見積もることが、文系から目指す場合の最初の一歩だと考えています。
逆に言えば、時間の見積もりさえ間違えなければ、文系出身でアクチュアリーになっている方はいます。
最初の1科目としては、数学が始めやすいと思います。
確率・統計とシグマ計算、微分積分がある程度できれば挑戦できますし、勉強の入り口としては最も取り組みやすい科目です。
もう1科目受ける余裕があるなら、会計・経済・投資理論(KKT)を加える形もあります。
進め方は数学の勉強方法とKKT(会計・経済・投資理論)の勉強方法に、始める時期の考え方はアクチュアリー試験の勉強開始はいつから?に書きました。
試験科目より先に、学生のうちにやってほしいこと
ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。
学生の方とお会いすると、ほとんどの方が合格科目の数を気にしておられます。
けれども、私が採用する側にいたときに見ていたのは、そこではありませんでした(以下は私自身が選考に関わっていたときの視点であり、企業によって異なります)。
見ていたのは、まず継続力です。アクチュアリー試験の本当に大変なところは、働きながら勉強を続けなければならない点にあります。
ですから、入社時点で何科目持っているかより、社会人になってから正会員まで走り切れそうかを見ます。実際、合格科目が0の状態で内定を得ている方は珍しくありません。
次にコミュニケーション能力です。
これは面白く話せるかということではなく、聞かれたことに答えられるか、専門用語を相手に合わせて言い換えられるか、事実と自分の意見を分けて話せるか、という意味です。
アクチュアリーではない人に数理の話を伝える場面は多く、数学を仕事にしているのだから数学さえできればいい、という誤解が最も大きなギャップになります。
そしてもうひとつ、人柄や雰囲気です。
アクチュアリー職の面接は人事ではなくアクチュアリー本人が行うことが多く、面接官はそのまま将来の上司や同僚になります。
一緒に働きたいと思えるかどうかは、どうしても重要な要素です。
では学生のうちに何をすればよいかというと、部活動、サークル、研究、アルバイトなど、今取り組んでいることに本気で向き合うことです。
今頑張れていない人が社会人になって急に頑張れるようになる、ということはあまりありません。アクチュアリー試験は社会人になってからでも受けられますが、学生のうちにしかできない経験はそのときにしかできません。理系の方は、卒業研究や修士の研究にしっかり取り組んでいただきたいと思います。
求められる資質そのものについてはアクチュアリーに必要な資質とはに、就職活動の具体的な進め方はアクチュアリーの就職活動と【アクチュアリー就活ガイド】①スケジュール・数理試験編、面接の中身は②面接の内容編にまとめています。
迷っている段階の人へ
最後に、まだアクチュアリーを目指すと決めきれていない方に向けて、私自身の話を書きます。
私がアクチュアリーを知ったのは、大学3年生の6月ごろでした。
当時の私には、やりたいことと呼べるものがありませんでしたので、やりたいことではなく、できることを軸に考えました。
数学の素養があり、人と話すこともある程度できる。この2つが活きる場所はどこかと考えた先に、アクチュアリーがありました。正直に書くと、収入も重要な判断材料で、高年収のアクチュアリーに興味を惹かれました(結果として私は社会人4年目・26歳のときに年収1,000万円を超えました。)。
ただし、楽な道ではありませんでした。
1次試験のときも大変でしたが、準会員になってからの2次試験のほうがはるかにきつかったというのが実感です。暗記量が多く、働きながら確保すべき勉強時間が格段に増えるからです。
厳しい面も知っておきたい方はアクチュアリーはやめとけ~正会員が解説~を、先行きが気になる方は【オワコン?】アクチュアリーの将来性もご覧ください。
よくある誤解
誤解1 合格科目が多いほど、就職で有利になる
科目を持っていることが加点にならない、という意味ではありません。
持っていればプラスにはなります。ただ、それが選考の中心ではない、というのが採用する側にいたときの私の感覚です。
0科目で内定を得ている学生は毎年います。科目数を増やすために学生生活の他をすべて削るのは、得策ではないと思います。
誤解2 数学さえできれば務まる
数学の素養は入口の条件であって、それだけで完結する仕事ではありません。
商品開発にしても決算にしても、他部門との調整や説明が業務の大きな部分を占めます。数学を使う仕事だからコミュニケーションは少ないだろう、という想像は、実態とかなり離れています。
誤解3 正会員にならないとアクチュアリーとして働けない
正会員資格がなければ就けない業務(保険計理人や年金数理人など)はありますが、アクチュアリーの業務全体がそうなっているわけではありません。
試験に受かってから就職するのではなく、就職してから試験を受ける、という順序が標準です。
まとめ
アクチュアリーになるには、資格を取る道筋と、アクチュアリーとして働き始める道筋の2つがあり、多くの人は後者から入って、働きながら前者を進めます。
受験資格は年齢だけで、大学や学部の要件はありません。理系の難関大学出身者が多いのは、数学の素養が求められる結果であって、条件そのものではありません。
文系から目指す場合は、必要な時間を正しく見積もることが出発点になります。そして学生のうちは、合格科目の数を増やすことよりも、目の前のことに本気で取り組んだ経験のほうが、選考では大きく効きます。
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この記事の執筆者
松岡 / 日本アクチュアリー会 正会員(FIAJ)
株式会社ACEプロフェッショナル 代表
アクチュアリーの転職支援・試験対策指導に従事

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