【生保2】2021年度解説#2(中問)

過去問解説-生保2
加藤
加藤

2021年度の生保2中問の試験問題を解説します。

問題と解答については、日本アクチュアリー会のサイトから引用させていただいております。

https://www.actuaries.jp/lib/collection/books/2021/2021G.pdf

2-1.医療保険の保険契約準備金

問題

(1)入院日数に比例した入院給付金を支払う無配当医療保険に関し、翌期以降の入院給付金の支払いに備えて事業年度末に負債の部に積み立てるべき保険契約準備金を列挙し、それぞれ簡潔に説明しなさい。

解答

(1)

<(通常の)支払備金、IBNR備金>
・ 保険業法施行規則では、支払備金として次の2種類の積み立てが必要とされている。
① 支払義務が発生しているが、決算期において、まだ支出として計上していない保険金等
② 支払事由の発生の報告を受けていないが、支払事由がすでに発生したと認められる保険金等
(いわゆる「IBNR(既発生未報告)備金」)
<(通常の)保険料積立金>
・ 通常、医療保険も標準責任準備金対象契約であり、平準純保険料式で計算し、告示に定める基礎率(予定死亡率、予定利率)を使用しなければならない。
・ また、発生率に関するリスクの97.7%をカバーする危険発生率を用いた負債十分性テストの結果、テスト実施期間(10年間以上)における保険料積立金を資産が下回った場合には積立不足と保険計理人意見書に記載がなされ、積立不足を解消するにはその不足額の現在価値の最大額を追加して積み立てる必要がある。
<いわゆる入院責任準備金>
・ 責任準備金の一部として、いわゆる入院責任準備金の積み立てが行われており、「支払事由は発生しているがその請求金額の確定がいまだなされていない」状態を扱っているものである。
・ IBNR備金の対象である請求は事業年度内に退院の時期を迎えている状態であるのに対して、いわゆる入院責任準備金の対象となる請求は決算期にまだ入院が継続している状態である。
<未経過保険料>
・ 事業年度末以前に収入した保険料を基礎として、未経過期間に対応する責任に相当する額として計算した金額を、積み立てる必要がある。
<危険準備金>
・ 保険業法施行規則に定める区分に従って、危険準備金を積み立てることが必要であり、第三分野保険の保険リスクは危険準備金Ⅳとして積み立てることとされている。
・ なお、ストレステストの対象とするリスクについては、実績の保険事故発生率等に基づきストレステストを実施し、テスト実施期間(10年間以上)の発生率に関するリスクの99%をカバーする水準まで危険準備金Ⅳを積み立てることとされている。

解説

医療保険の章からの出題です

過去にも出たことある問題なので、書けた受験生が多かったのではないでしょうか。

この問題は今後も出題されることが予想されるので、丸ごと暗記することを推奨します

特にIBNR備金といわゆる入院責任準備金の違いは小問でもよく出ますので、きちんと覚えておきましょう。

2-2.MCEVとTEVの相違点

問題

(2)市場整合的EVと伝統的EVとの主な相違点について簡潔に説明しなさい。ただし、EVとはエンベディッド・バリュー、市場整合的EVとはCFOフォーラムが2008年6月に発表したMCEV原則に基づく市場整合的EVを指すものとする。

解答

伝統的 EV では、ハードル・レート(およびそれに付随する資本コスト)によりリスクの反映を行っているため、負債対応資産について株式等のリスク資産の構成比を高めた場合、期待投資収益の増加は、資産運用リスクに対応した資本コストの増加や割引率の増加によってある程度の調整はされるが、市場リスクに係る完全なリスク調整は期待できないため、リスクの大きい投資行動を過大評価する傾向があると言われている。この伝統的 EV の欠点を解消するため、市場整合的 EV(以下、MCEV)では、リスクを明示的に反映することが求められている。
・ MCEV では、保険負債のキャッシュ・フローの現在価値は、理論的には対応する複製ポートフォリオの価値により評価される。保険契約に内在する「金融オプションと保証の時間価値
(以下、TVFOG; Time Value of Financial Options and Guarantees)」も、それを複製するためのヘッジコストとして評価される。伝統的 EV では、TVFOG は明示的には評価されていない。TVFOG の評価対象としては、契約者配当や解約に係る権利、変額年金の各種最低保証などが挙げられる。
・ 伝統的 EV では、ハードル・レートで割引を行うことによりリスクの反映を行う。そのため、保有する必要資本に対して資本コストが発生し、資本コストの控除が行われることになる。一方、市場整合的評価を行うことでリスクの反映を明示的に行う MCEV では、市場リスクに係る調整を反映するため、負債対応資産の構成内容にかかわらず投資収益率及び割引率としてリスクフリー・レートが適用されることから、伝統的 EV の意味での資本コストの控除を別途行う必要はない。
・ ただし、MCEV においても、リスクに対する資本は必要であり、その必要資本に対するコストとして、「必要資本に対するフリクショナル・コスト」の反映を行う必要がある。「必要資本に対するフリクショナル・コスト」とは、例えば、実際の市場には投資収益に係る二重課税のコスト等の摩擦が存在するため、監督規制・格付・リスク管理等のために保険会社が維持する必要資本に対して発生する摩擦的な資本コストである。
・ また、仮に複製ポートフォリオに投資したとしても、市場リスク以外のヘッジ不能リスクがあるため、「残余ヘッジ不能リスクに対するコスト」が発生する。例えば、保険リスク等がヘッジ不能リスクに分類される。
・ 企業価値評価としては、財務的困難のコストやエージェンシー・コストも評価すべきリスクであるが、MCEV 原則の結論の背景において、CFO フォーラムは、これらは、企業の経営が評価すべき一般的な事業リスクではなく、個々の投資家が評価すべき一般的な企業リスクであるとして、MCEV 算出の際には考慮せず、個々の投資家が必要に応じて考慮するものとしている。
・ MCEV は、MCEV 原則およびそのガイダンスに準拠する形での外部レビューおよび開示が行われていることから、透明性の向上と比較可能性の確保が図られている。
・ MCEV は修正純資産と保有契約価値の合計として表され、MCEV における保有契約価値は、確実性等価利益現価、金融オプションと保証の時間価値、必要資本に対するフリクショナル・コスト、そして残余ヘッジ不能リスクに対するコストから構成される。

解説

『第7章内部管理会計』潜在価値会計からの出題です。

私が生保2の勉強を始めた当時は、「MCEVって、横文字だし、よくわからない!」となっていました。しかし、勉強が進んで、「現行の法定会計のデメリットを把握できたこと」でMCEVの理解が進みました。なので、これを見ている方で「MCEVとはなんぞや?」という状態の人は、「現行の法定会計の収入と支出の不一致」をまず理解しましょう。

法定会計の収入と支出の不一致
    • 新契約が増加した場合、新契約費が増えて、利益が下がる
      (一方、将来利益は増加
    • 解約が増加した場合、解約益が増えて、利益が増える
      (一方、将来利益は減少

    など、「長期的に見た場合の利益の増減」と「単年度の利益の増減」の不一致が起きる

    したがって、たくさん新契約をとっている会社は単年度の利益が下がるので、P/L上では業績が悪化しているように見えます。(将来利益を含めれば、会社としては利益は増加している)

    このデメリットを補うために、将来利益も当期の利益として評価する「MCEV」や「TEV」などの潜在価値会計が内部管理会計として必要ということです。(他にも、ロックイン方式V評価によるデメリットを補完するなどの意義もあります)

    歴史が浅くて、保有契約が少ない会社は、新契約獲得による費用の増加の影響が大きいため、この傾向が顕著に表れます。なので、ステークホルダーから「業績が悪化しているのではないか?」と思われないために、ディスクロージャーをきちんと行うことが大切です。

    その中でも、ライフネット生命はディスクロージャーきちんと行っているなと私は感じています。投資家への説明も丹念に行っており、経営目標としてEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)2,000億円を掲げているなど、EVベースでの経営がなされていると思われます。
    ライフネット生命のIR資料は、生保2受験生に参考になる資料が盛りだくさんなので、読んで見ることをおすすめします。最近ではIFRS17導入のための解説動画もあるので、アクチュアリーとして大変勉強になります。

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