【生保1】2021年度解説#2(中問)

過去問解説-生保1
山田
山田

2021年度の生保1中問の試験問題を解説します。

問題と解答については、日本アクチュアリー会のサイトから引用させていただいております。

https://www.actuaries.jp/lib/collection/books/2021/2021G.pdf

2-1.第3分野標準生命表2018の作成過程

問題

(1)第三分野標準生命表2018の作成過程を簡潔に説明しなさい。
なお、第三分野標準生命表2007の作成過程からの主な変更点とその変更理由にも触れること。

解答

(1)まず、第三分野標準生命表2018(以下、「生命表2018」)の基礎データとして第 21 回生命表を用いる。
第三分野標準生命表2007(以下、「生命表2007」)作成時は、第三分野は特約形式で死亡保障性商品に付加される割合が高かったことから、基礎データに生保標準生命表2007(死亡保険用)とあわせて死亡保険の経験死亡率(業界データ)を用いたが、生命表2018では契約形態の変化(主契約・単品化)の実態や死亡保険との診査手法の相違、同じ生存リスクに対応する年金開始後用との整合性等を踏まえて変更している。このため、生命表2007で行っていた若齢部分の補整や基礎データの截断を生命表2018では行っていない(基礎データで既に行われている)。次に、この基礎データに対し、基礎データの年度以降の死亡率の改善状況や米国における標準生命表の作成方法等を踏まえて、標準生命表の適用年までの死亡率改善を反映することを生命表2018で導入している。具体的には国民死亡率の実績が判明している 2010 年から 2015 年の簡易生命表を踏まえて、2015 年までの年平均改善率を男性 2.5%女性 2.0%と推計し5年分を、国民死亡率の実績が判明していない 2015 年から標準生命表が適用される 2018 年までは国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口の結果を踏まえて、年平均改善率を男女ともに 1.0%と推計し3年分を、それぞれ反映して補整前死亡率としている。
最後に、補整前死亡率に対し、単年度のブレへの対応、母数の差による違いの吸収、基礎データを国民表とすることへの対応、将来の死亡率変動への対応などの観点から数学的危険論に基づいて補整を行う。具体的には標本数が十分に大きければ標本死亡率は正規分布に従うとして補整前死亡率から2σを減じた(ただし補整前死亡率の 70%を下限とし、さらに生命表2018では特に高齢部分の「将来の死亡率変動への対応」を図る観点から上限 85%も追加した。)。なお、この補整で用いる標本の大きさは生命表2018では直近実績の各社の契約件数も踏まえて男女各々100 万件(生命表2007では 400 万件)としている。
また、生命表2007作成時に行った死亡率曲線の平滑化(グレビルの多項式による補整)や高齢の補外(ゴムパーツメーカムの法則)は、生命表2018の基礎データ自体に既に行われているため行っていない。なお、生命表2007は死亡率に高度障害を含むのに対し、生命表2018は含まないことも異なる点である。

解説

『標準生命表の作成過程』からの出題です

私の周りでは、「標準生命表は最近出たから勉強しない」と決めつけて、この中問を落として不合格になった人がたくさんいました。

もちろん、やまを張って受かる場合もあります

しかし、私はやま張ることなく、すべての範囲を覚えることを推奨します(もちろん、しんどいですが…

プライシングをするうえでは、保険料計算基礎率と責任準備金計算基礎率の両方に配慮しないといけません

責任準備金の計算基礎率には、標準生命表の死亡率が使用されるので、プライシングアクチュアリーとしては、作成方法について覚えておく必要があります

また、覚えるときは、試験の解答のよう文章をそのまま覚えるのではなくて、以下のように分割して覚えることを推奨します

 ①基礎データ

  • 第三分野標準生命表2007作成時は、特約形式で死亡保障性商品に付加される第三分野保険の割合が高く、基礎データを生保標準生命表2007(死亡保険用)とあわせて死亡保険の経験死亡率とした。
  • 今回、第三分野保険の契約形態の変化(主契約・単品化)、死亡保険との診査手法の相違、同じ生存リスクに対応する年金開始後用との整合性等を踏まえ、基礎データを第21回生命表(2010年)とすることとした。
  • このため、生命表2007で行っていた若齢部分の補整や基礎データの截断を生命表2018では行っていない(基礎データで既に行われている)。

②死亡率改善の反映

  • 基礎データの年度以降の死亡率の改善状況や、米国における標準生命表の作成方法等を踏まえ、基礎データに標準生命表の適用年までの死亡率改善を反映したものを補整前死亡率とした。
  • 2010年から2015年までの簡易生命表を踏まえ、2015年までの年平均改善率を男性2.5%、女性2.0%と推計した。(国民表の実績が判明している2015年まで)
  • 将来推計人口の推計結果を踏まえ、2015年からの年平均改善率は男女ともに1.0%と推計した。(国民表の実績が判明していない2015年から2018年まで)

③数学的危険論による補整

  • 「単年度のブレへの対応」、「母数(会社規模)の差による違いの吸収」、「基礎データを国民表とすることへの対応」、「将来の死亡率変動への対応」などの観点から数学的危険論に基づいて補整を行う。
  • 変動予測に用いる想定件数は、標準的な会社を想定して男女各々100万人とした。(標準生命表2007では400万人)
  • 将来経験する死亡率が変動予測を超える確率を2σ水準(2.28%)におさえるように補整した。ただし、補整幅に年齢間で極端な差異が生じるのを避けるため、補整前死亡率の70%を下限、85%を上限とした。

④その他

  • 生命表2007作成時に行った死亡率曲線の平滑化(グレビルの多項式による補整)や高齢の補外(ゴムパーツメーカムの法則)は、生命表2018の基礎データ自体に既に行われているため行っていない
  • なお、生命表2007は死亡率に高度障害を含むのに対し、生命表2018は含まない
  • 最終年齢は、0歳の生存数を10万人として、生存数が1未満となる年齢とした(男子116歳、女子118歳)

文章を分割しただけですが、これだけでも覚えやすくなったと思います。

まず青字の4つを覚える。そこから各3つの論点(「・」)を覚える

4×3と分割することで、覚えることのハードルが下がります

教科書も一言一句覚えるのは無理なので、分割して覚えることが「効率的な暗記」につながります

困難は分割せよ

ルネ・デカルト

デカルト先生も言っているので、試験勉強の際に意識してみてください

2-2.低・無解約返戻金型商品について

問題

(2)低・無解約返戻金型商品について、次の①~③の各問に答えなさい。

① わが国で、低・無解約返戻金型商品の開発・普及が進んだ背景について、金利政策、経済環境および本商品の利点に触れながら、簡潔に説明しなさい。(3点)

② 低・無解約返戻金型商品の開発における一般的な留意点のうち「保険契約者の理解」について簡潔に説明し、これに対して取り入れられている商品の設計上の工夫を2つ挙げなさい。(3点)

③ 単品の無解約返戻金型平準払終身保険について、払済保険への変更を取り扱うことができないという立場を取った場合に、その理由を、次の(ア)の考え方、(イ)の観点ごとに、それぞれ簡潔に説明しなさい。(4点)
(ア)払済保険への変更の原資として解約返戻金を使用するという考え方
(イ)解約した者と払済保険に変更した者との公平性の観点

解答

①長期間にわたる低金利政策による予定利率引き下げは保険商品の価格の引き上げにつながった。一方で、景気の低迷が続き、消費者は割安の保険料を求めており、その傾向は強くなってきている。低・無解約返戻金型商品は、実態的なコスト削減を行わなくても従来の保険商品と同じコストの範囲内で保険料が安くできる利点があった。このような低価格商品を開発したことは消費者ニーズに応えたということができる。
※「低・無解約返戻金型商品の利点として、解約のモチベーションが抑制され、解約時の保険会社からの資金の持ち出しも抑制されることから、ディスインターミディエーションへの耐性が強く、低金利環境に合っていた。」など正しい記述に対して適宜加点した。

②低・無解約返戻金型商品を開発する際の留意点で最も大事なのは「保険契約者の理解」である。解約返戻金の水準を小さくするほど保険料は低廉になる。加入時にきちんと説明し理解してもらって加入いただくので、そこに問題があるわけではない。しかし、長期間経過したのちに解約する場合というのは、やむを得ないケースが多くなる。契約時に低・無解約返戻金のことを説明し水準を示すとしても、10 年、20 年と経った場合も想定しなければならない。これに対し、商品の設計上の工夫として、次のような方法が取り入れられている。
・解約返戻金をあまり極端に小さく設定しない。
・解約返戻金を低く抑える期間を短く設定する。
※商品の設計上の工夫については、上記の他にも以下が挙げられる。
・契約の乗換が頻繁には起こりにくい比較的高齢者向け、あるいは持病のある被保険者向け
に設計された商品に導入する。
・保険期間を短く設定する。
・十分な解約返戻金があることを元々期待されていない掛捨て型商品に導入する。

③(ア)払済保険への変更の原資として解約返戻金を使用することは、払済保険に変更すると以後の保険料は払い込まれなくなるため、未回収のまま残っている過去の事業費支出の自己負担分を変更時点で清算しておく必要があるという考え方によるものである。この考え方に従えば、払済保険への変更を取り扱うことはできない。

(イ)払済保険への変更を可能とした場合、解約した者と払済保険に変更した者を比較すると、
・解約した者:その後の「保険料払込負担なし」+「返戻金も保障も一切なし」
・払済保険に変更した者:その後の「保険料払込負担なし」+「小なりとはいえ保障が残る」
となるため、解約した者と払済保険に変更した者とで公平性の観点から問題が生じる。この場合、解約する者はいなくなり、残存契約群団の維持に支障が生じる可能性があることから、払済保険への変更を取り扱うことはできない。

解説

ほとんどの保険会社の医療保険が無解約返戻金型なので、生保アクチュアリーとしては知っといてほしい論点です

①無解約返戻金型商品の開発と普及の背景

「低金利環境を背景とした予定利率の低下に伴う、保険料の高料化。この解決策としての、無解約返戻金型の導入」などと書ければ、点はもらえると思います。

  • 契約者としては、解約前提で入らないため、保険料が安くなる。
  • 保険会社としては、解約を抑止したいし、保険料が安いと売りやすい。

という両者のメリットが一致した良い仕組みだと筆者も思います

② 低・無解約返戻金型商品の開発における一般的な留意点

今回は「契約者の理解」からの視点でした。

「契約者から理解が得られる商品にするためにはどうするか」は、商品開発アクチュアリーとしては、常に気を配るところですので、是非書けてほしい問題です

無解約返戻金型商品の留意点は、「契約者の理解」だけでなく、「企業行動との関係」解約返戻金相当額が使用される各種取扱への対応」が教科書に記載されているので、併せて覚えましょう。この論点は、所見にも使えるので「覚え得」です

③無解約返戻金商品からの払済商品への変更について

ほとんどの会社が取り扱っていないと思いますが、「なぜ取り扱っていないのかを考えてみよう」的な問題かもしれません

これも教科書に記載されているので、ちゃんと勉強していれば、10点取れる問題なので、落としたくないですね

ちなみに私が受験生の時は「無解約返戻金」を「無W」と略して記述していました。当時は筆記だったので、とにかく時間がなく、必要な戦略でした。今はCBTとなり、多少余裕が生まれているかと思いますが、採点側はこのテクニックを駆使してきた方達なので、ちゃんと定義すればここ重要)、使っても問題ないかと思います

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