【損保1】2025年度解答速報#3(大問)(アクチュアリー試験)

松岡
松岡

2025年度の損保1大問の試験問題を解説します。



※本解答速報は、試験問題に対する参考解答を提供するものであり、公式解答ではありません。正確な解答は、日本アクチュアリー会が発表する公式情報をご確認ください。
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えぬ様に作成のご協力をいただきました。誠にありがとうございました!

問題については、日本アクチュアリー会のサイトから引用させていただいております。

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3-1

問題

問題3.次の(1)、(2)の各問に答えなさい。【各3,000文字以内】
各17点 (計34点)

(1)ある損害保険会社では、現在販売中の自動車保険(個人向け、保険期間1年)において、スマートフォンを用いて車両の位置情報や危険挙動情報(急加速、急ブレーキ、急ハンドルといった事故につながる可能性の高い行動の回数をいう)を収集し、そのデータを活用して新たにリスク細分を行うことを検討している。本検討に際し留意すべき事項について、アクチュアリーとしての所見を述べなさい。
ただし、本検討に活用できるスマートフォンを用いた収集データは、直近半年間で一部の販売チャネルにおいて協力者を募りトライアルで収集したものとする。

解答

1.はじめに

・個別の運転特性に応じて保険料のリスク細分を行うことで、個別の被保険者のリスク実態をより正確に保険料に反映することができ、より公平な保険料体系を実現することができる。

・また、車両の運転挙動は被保険者の自己コントロール努力で改善可能であるため、当該リスク細分を行うことで、被保険者の運転挙動改善を促しロスコントロール効果が期待できることから、社会的にも意義が大きい。

・一方で、スマートフォンからのデータ収集や料率設定等にあたっては固有の論点があるため、これらを列挙して整理する。

2.スマートフォンからのデータ収集に関する留意点

(1)データ収集の精度・同一性検証

・スマートフォンの機種は多岐にわたり、かつ保険会社が主体となって開発しているものではないことから、多種多様なスマートフォンにおいて収集される運転挙動情報(車両の位置情報や危険挙動情報)の精度や同一性を、販売前に保険会社自身で十分に検証することが求められる。

・そのため、トライアルで収集されたデータに異常値・欠損値が含まれるかを検証するのみならず、例えばスマートフォン機種別に事前走行テストを実施する等により、どのスマートフォンが対象機種として認められるか、十分に精査する必要がある。このとき、同一機種でもOSの違いで収集データの精度が異なったり、車両内でのスマートフォンの設置場所の違いによって収集データの精度にばらつきが生じることも想定されるため、複数のOSバージョンや複数の設置パターンで走行テストを行うことも求められる。

(2)データの正確性確保に向けた取り組み

・収集された運転挙動情報の精度が確認された場合においても、スマートフォンの通信状況やバッテリーの制約等により、データ送信の網羅性を確保することが難しくなる状況も想定される。

・また、被保険者が恣意的にスマートフォンの電源オン・オフを行ったり、他者の運転する車両に乗車中にデータを蓄積するといった”なりすまし”行為等、データの不正収集が発生することも想定される。

・このため、定期的にデータが適切に取得されているかモニタリングする態勢を構築するほかに、被保険者の実際の走行距離(オドメーター値に基づくもの)とスマートフォンを通じて収集・送信された走行距離情報との乖離状況を契約更改・更新時に分析できる仕組みの構築や、恣意的なデータ選択および”なりすまし”行為を防止するための方策等を検討する必要がある。

3.料率設定に関する留意点

(1)リスク細分区分および料率較差の決定

・収集される危険挙動回数のみによってリスク細分を決定することは、データ計測上の偶然のブレや走行距離の多寡等に左右されるため、合理的なリスク細分とは必ずしもいえないと思料。そのため、トライアルで収集したデータから運転挙動のスコアリングモデルを構築して各被保険者の危険度を指標化(例えば100点満点で点数化)し、特定の閾値に応じてリスク細分区を決定することが考えられる。(以降、スコアリングモデルによる指標をリスク細分区分に活用する前提とする。)

・スコアリングモデル構築にあたっては、指標の算出に用いる各個人の運転挙動情報と指標のそれぞれの関係について契約募集時に合理的に説明でき、被保険者が十分な納得感をもって理解できる程度に簡明であることが、契約者保護の観点のみならずロスコントロールに向けたインセンティブの観点からも望ましい。

・リスク細分区分の検討にあたっては、制度の安定性や保険の入手可能性等に留意する必要がある。リスク細分区分を増やすことは個々の被保険者の危険度をより反映しやすい保険料体系となる反面、契約更新のたびに保険料の変動が生じやすく、制度の安定性が損なわれる可能性があるほか、高い危険度に対しては必然的に高い保険料が課せられることとなり、保険の入手可能性に問題が生じる可能性がある。

・等級制度や免許証の色といったリスク細分項目は個別の運転特性を一定反映している項目であるため、新たに導入するリスク細分の料率較差を検討するにあたっては、既存の保険料体系との関係性に留意する必要がある。また、スコアリングモデルの学習データとなるトライアルデータは「直近半年間で募った一部の販売チャネルにおける協力者」のものと限定的であるため、ポートフォリオが偏っている可能性がある。このようなモデルの不確実性を勘案し、リスク細分の料率較差を一定抑えることも考え得る。

・被保険者の走行距離が十分でない場合、得られる運転挙動情報の信頼性が低く、モデルによって算出された指標が実態を適切に表さない場合が考えられるため、例えば走行距離が一定以下の被保険者はリスク細分の対象外とする等の対応が考えられる。

(2)純保険料の水準決定

・リスク細分は一般的にファンドイーブンとなるように実施されるため、新たなリスク細分導入にあたっては、リスク細分区分別の契約構成割合を予測して、料率較差調整前の基準料率水準を適切に調整する必要がある。

・また、本リスク細分は被保険者のロスコントロール効果が期待できることから、期待ロスコントロール効果が測定できる場合は当該分だけ純保険料水準を削減することも考えられる。

(3)付加保険料の水準決定

・システムの開発・運用や商品販売後のデータ蓄積に係る費用等、当該リスク細分で生じるコストについては、一般的に、料率三原則の観点から当該リスク細分を実施する商品の付加保険料設定の際に勘案すべきである。

・リスク細分を実施しない他商品への配賦を検討する場合は、当該他商品の保険契約者が付加保険料としてコストを負担することの適切性を、公平性確保の観点から慎重に精査する必要がある。また上記コストについてどの程度の期間で収支を均衡させるかについて、初期開発コストとランニングコストを踏まえ決定する必要がある。

4.その他の留意点

・新たなリスク細分の導入であるため、リスク細分区分ごとの契約構成や料率区分間の危険度の較差について、定期的にモニタリングを行い開発時の想定からの乖離を把握することがとりわけ重要である。そのためにも、運転挙動情報ややモデル指標等のデータベースや分析基盤の構築や、検証結果に応じた機動的な商品・料率改定や販売方針変更を可能とするために必要な態勢整備をあらかじめ行っておくことが望ましい。

・例えば、「危険度が実態として低減していないにもかかわらず安い料率区分が適用される契約が増加する等、料率の公平性に課題が生じていないか」「ロスコントロール効果を料率に反映している場合は想定通りの効果が発現しているか」といった観点も含め、料率区分ごとの契約構成や損害率を把握し、問題が生じた場合は料率設定の見直しを検討する必要がある。

・トライアルデータからスコアリングモデルを構築しているため、定期的に最新の入力データを用いてモデルと危険度との相関関係を検証し、適宜調整する必要がある。

・販売状況についても初期開発コストやランニングコストに見合った契約規模が確保できているかを定期的に検証し、料率設定や販売方針に反映することも必要。 ・運転挙動情報の取得障害が発生する等、料率決定に支障を及ぼす問題が発生した場合であっても、契約者の不利益とならないような対応をあらかじめ検討する必要がある。(2989字)

3-2

問題

(2)近年、商品やサービスのオンライン購入の拡大に伴い、保険会社が自社の保険商品を保険商品以外の商品やサービスに組み込んで提供する、「組込型保険(エンベデッド・インシュアランス)」が国内外で注目されている。
ある損害保険会社Aでは、他企業Bの運営するEC(電子商取引)サイトを通じてスポーツに関連する商品・サービスが提供される際に、保険商品を併せて提案する、組込型保険の新商品を販売することを検討している。販売する新商品は、スポーツ活動中の傷害事故のリスクに対する補償ニーズを想定し、普通傷害保険(個人向け、保険期間1年)とする予定である。
本保険商品の料率設定および収支管理・リスク管理において留意すべき事項について、アクチュアリーとしての所見を述べなさい。なお、解答にあたって、下記の点を前提とすること。
【前提】
 損害保険会社Aでは、本新商品の販売以前から、始期日時点の年齢が64歳以下の被保険者が
加入可能な普通傷害保険(個人向け、保険期間1年)を代理店による対面募集で販売している。
同保険商品の募集手続きにあたっては、保険契約者には「保険契約者本人の氏名・住所」「被保険者本人の氏名・住所」の確認に加え「被保険者の生年月日」「被保険者の職業・職種」を告知事項として確認している。
 新商品の補償内容と、加入可能な年齢は、代理店による対面募集で販売している既存の普通傷害保険と同一とする。ECサイト上で効率的な保険募集を行う観点で、新商品の被保険者は保険契約者と同一とし、また、募集手続きにあたって保険契約者には「保険契約者本人の氏名・住所」の確認に加え、「保険契約者(被保険者)の生年月日」を告知事項として確認する予定である。
 新商品は、ECサイト上で保険契約を締結した保険契約者が、ポイント発行会社の会員である場合、保険契約者が支払った保険料に所定の率を乗じた額に相当するポイントを付与することを検討している。

解答

1.はじめに

・組込型保険のスキームは顧客の購買体験の中に直接保険の提供を組み込むことが可能となるため、消費者にとって利便性と保険商品へのアクセスが向上するといったメリットがあるほか、商品・サービス提供事業者にとっては商品・サービスの付加価値が向上すること期待される。

・保険会社にとっては、組込型保険を活用することで保険募集の効率化が期待できるほか、新たな顧客層へアクセスし販売網の拡大につなげることができる。

・本問は、EC(電子商取引)サイトを通じてスポーツに関連する商品・サービスが提供される際に、既存の普通傷害保険を組込型保険として提供し、あわせて保険契約者がポイント発行会社の会員である場合はポイント付与も検討しているもの。本保険商品の料率設定および収支管理・リスク管理において検討すべき事項を列挙して整理する。

2.料率設定

(1)純保険料の検討

・ECサイトを通じた募集と代理店による対面募集では、販売対象顧客のリスク特性が異なることにより、平均事故率や一事故あたりの損害額に有意な差が存在する可能性が考えられるため、新商品の純保険料率水準の検討にあたっては、当該影響を考慮する必要がある。このために、他企業BからECサイトでスポーツに関連する商品・サービスを購入する顧客属性に関する情報(年齢・職種分布等)を入手し、既存商品の純保険料率算定における契約構成割合を調整することが対応案として考えられる。

・新商品は「被保険者の職業・職種」を告知事項として確認しないため、一般的に傷害事故リスクと連動性があると考えられる職業・職種を料率細分区分として採用することができない。そのため、職業・職種による料率細分を既存商品(他社含む)で実施している場合、高リスク層の流入/低リスク層の流出が発生する可能性もあるため、安全サイドで純保険料率を算定することも考えられる。

・一方で、新商品と既存商品の補償内容が同一であるため、上記の検討を行った場合、一物二価となり契約者の公平性を欠くおそれがある。そのため、純保険料の検討にあたっては既存商品との整合性に留意し、場合によっては新商品の補償内容に差を設けることも含めて検討する必要がある。

(2)付加保険料水準の検討

・代理店による対面募集に比べて、ECサイトを通じた募集は営業に要する人件費や申込書類に関する物件費の削減(募集効率効果)が期待できる一方で、新規販売チャネルでの募集となるため募集態勢整備に要するコストやシステム開発コストの初期コストがかかるため、当該コストをどの程度の期間で収支を均衡させるかについて、販売計画を踏まえて決定する必要がある。

・代理店手数料率についても、募集や契約管理・維持に関する体制は代理店と異なることが想定されるため、ECサイトを通じた募集フローを踏まえて、従来商品の代理店手数料率を調整することが考えられる。

(3)ポイント付与の検討

・ポイント付与は実質的な保険料割引(付加保険料割引)であるため、料率三原則に則り、適切に計算された付加保険料の削減相当分の範囲内で社会通念上相当な価値のポイント付与を行うものである必要があることに留意する。

・(2)で考慮している募集効率効果と重複のないようにする必要があるほか、ポイント発行会社への特別利益の提供とならないよう、付加保険料の削減相当分の算出にあたっては安全サイドに立つことも必要であろう。

・また、ポイント付与の検討にあたっては、付与するポイントは価値が一定かつ著しい変動が生じないものであることや、契約者に特段の資格やスキルを必要とするものではなく、ポイントの適用機会の均等性を有するものであることを確認することが求められる。

3.収支管理

(1)収支管理態勢の構築

・新規販売チャネルでの新商品販売となるため、販売初期において特に開発時想定からの乖離が発生する可能性がある。そのため、検証結果に応じた機動的な商品改定・料率改定や販売方針変更を可能とするため、あらかじめ必要な態勢整備を行っておくことが望ましい。

(2)引受状況のモニタリング

・料率設定時の想定顧客分布と販売後の被保険者の年齢・職業の分布等の危険度の違いを踏まえ、契約ポートフォリオが想定していたものと乖離が発生していないか、モニタリングすることが重要である。

・とりわけ、職業分布については(1)で述べた通り高リスク層の流入/低リスク層の流出が発生する可能性が考えられるため、乖離状況をモニタリングし、乖離幅が大きいときは「被保険者の職業・職種」を告知事項として追加することも含め、料率体系を見直すことも考えられる。

(3)販売件数、経費に関するモニタリング

・新商品の販売にあたり必要となるシステム導入、維持コストなどの経費予算が、計画通りに費消され超過がないかどうかはモニタリングの対象とするべきである。また、これらの経費は予測販売件数に基づく付加保険料収入で賄うことを見込んでいるため、実績販売件数が予測値と乖離しているかどうかも重要な指標となる。両者を評価して、付加保険料収入が事業を継続できる水準であるかどうかをモニタリングしてくことが望ましい。

・販売件数が計画よりもショートしている場合は、付加保険料収入がショートして経費倒れになる可能性が高いため、販売面でのてこ入れを行うことや、場合によっては損失をこれ以上拡大させないための販売停止の判断もあり得る。

4.リスク管理

(1)集積リスク

・新商品はスポーツに関連する商品・サービスと合わせて提案される性質上、顧客属性が同属性に集中する可能性がある。これにより、例えば構成員全員が本商品を付帯したスポーツチームが遠征等でバスに乗車している最中に転落事故が発生する場合など、リスクが集積して多額の保険金支払が発生する可能性が高くなることも想定される。よって、リスクの集積状況について定期的にモニタリングし、必要に応じて引受制限等の対応を検討するべきである。

(2)他企業のECサイトでの募集に関するリスク

・新商品は他企業のECサイトを通じて販売されるため、システム障害等が発生しECサイトのサーバーが稼働停止した場合、保険募集を行うことができなくなるリスクがある。また、当該企業のサイバーセキュリティが不十分である場合、サイバー攻撃等により自社の保険契約者情報が流出するリスクも考えられる。

・このため、事前にECサイト運営会社のシステム管理体制やセキュリティ体制を精査し、自社のシステム管理方針と整合するかどうか確認することが必要。

(3)ポイント付与にかかわるリスク

・ポイント付与が「特典」と誤認された場合、保険会社がポイント発行会社に特別利益を提供していると受け取られ、レピュテーションリスクが発現する可能性がある。そのため、募集文書においてポイント付与は募集経費の削減効果の還元である旨を記載するなど、単なる「特典」ではないことを明確にすることが求められる。 ・また、保険契約者保護のために、ポイント発行会社の信用の状況が良好であることを確認することも必要。(2894字)

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